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すっかり日の暮れた住宅街。
街灯が照らす道を二人は歩く。
雲一つない夜空に浮かぶのは、見事なまでの満月。高い空の向こうから、秋の夜長を優しく見守っている。
「っくしゅん!」
時折吹く風は冷たく、冬の匂いを感じさせる。
操は可愛らしいくしゃみをした。
「大丈夫か?」
「誰のせいよ。誰の」
「……悪かったって」
じと目で睨まれ、優一はばつが悪そうに目線をそらした。
戦いが終わって地上に戻ってきた優一と稔を出迎えたのは、ずぶ濡れになってその身を震わせていた二人の少女。彼らが水中で盛大な爆発を起こすたび、彼女らはその煽りを喰っていたのだ。
稔が早急に火を起こして二人の暖を取ったわけだが、衣服が乾いても骨の髄にまで染みた寒さは取れなかったらしい。
「他に方法がなかったんだ。今度飯でも奢るから許してくれ」
「分かってるわよそんなこと。私だって本気で怒ってるわけじゃないわ」
その後千歳は稔が、操は優一が送り届けることとなり、現在に至る。
「でもまぁ、奢ってくれるなら甘えてあげてもいいわよ?ソフィーアのデラックスチョコパフェなんてどう?」
「鬼かお前は。ただでさえ涼しい俺の財布に吹雪を喰らわしてどうするんだ」
二人の会話は終始穏やか。
戦いの最中の激しさなど微塵も感じられない。
人通りのない道を、二人はゆっくりと歩く。
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