青く透き通る悪魔

58/59

90798人が本棚に入れています
本棚に追加
/396ページ
「……まぁ、お前がいいんならそれでいいけどさ」 優一はばつが悪そうに鼻を掻いた。少しだけ顔が赤いように見えるのは、多分気のせいではないだろう。 普段は見せないそんな姿が何だかおかしくて、操はちょっとからかってみたくなった。 「それにあなた、私が目を覚ましたとき、泣いてたでしょ?」 そう。 三途の河岸から帰還を果たし、まず最初に目に飛び込んできたのは、目に涙を貯めた優一の顔。 本人が気づいてないはずは多分ない。触れられたくないものなのだと思った。 だから、もっと面白い反応をしてくれると思った。 「……」 しかし優一はそんな操の思惑に反し、動かしている足をぴたりと止めた。 「どうしたの?」 そして、頭にクエスチョンマークの浮かんでいる操の顔を、無言のまま見つめる。 「……」 しばしの沈黙が二人の間を支配する。 「な、なによ?」 沈黙に耐えられなくなった操の顔を、それでも優一は無言のまま見つめ、そしてはっきりとした口調で言った。 「お前に死なれたら困るからな。主に俺が」 「えっ――」 どういうこと。 そう訊くより早く、優一は歩き始めてしまった。 「早く帰ろう。いい加減、校長先生も心配している頃だ」 「う、うん」 月明かりに照らされた二つの影が伸びる。 ぴったりと寄り添うように、長く、長く。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90798人が本棚に入れています
本棚に追加