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天井を見上げる。
ぼんやりと白い壁紙が見える。
このまま寝てしまえば、明日からはまた平凡な日常が始まる。
(……)
たしかに感じた彼と彼女の絆。いや、絆を超越した何か。それは好意なのだろうか。あるいは、仲間同士の友情なのだろうか。
彼の口から聞いたわけではない。
彼は自分の気持ちを言わない。
だから、分からない。
(……)
そもそも彼は、自分や彼女の気持ちに気付いているのだろうか。もしそうならば、彼はとても罪な人だと思う。
気づいていないとすれば、とても鈍感な人だと思う。
しかし、それはチャンスではないだろうか。
彼は彼女の気持ちにも気付いていない。だから先手を打てれば――。
(やめよう)
くだらない妄想は悲しくなるだけ。
少なくとも、彼にとって彼女は特別な存在であることはたしかなのだから。
(……優一君)
唇だけを動かして、彼の名前を紡ぐ。言いたくても決して言えない。
下の名前で呼び合っている二人を、何度羨ましく思ったことだろう。時が経てば、親しくなれば、自分も下の名前で呼ばれると思っていた。
でも、呼んでくれなかった。時が経っても、親しくなっても。
それは彼女が特別な存在だという何よりの証拠。
自分が入る余地などあるが、ない。
(でも)
それでも。
最後の最後まで足掻きたい。
入り込む余地がないといっても、それは限りなくゼロに近いだけで、小数点以下程度の可能性は残っているはずだ。
希望があるならすがりたい。たとえ消えかけの線香花火のような、小さな小さな光でも。
もしその希望にすがって平凡な日常が戻ってこなかったとしても、後悔はしない。
ベストを尽くしてだめだというのなら、自分はそれを受け止めよう。
恋というのは、そういうものだと思うから。
明日は土曜日。
チャンスは、そこしかない。
(……私は伝える。自分の、想いを)
ある決心をその身に秘め、千歳は静かに目を閉じた。
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