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塚越優一はわりと綺麗好きな男である。
週末になると彼は決まって自分の部屋の掃除をする。
「んーんー」
机の上の整理から始まり、本棚の整理をしてオーディオ機器の埃を払い、今はこうして下手な鼻歌を歌いながらカーペットに掃除機を掛けていた。
飾り気のない部屋に響く吸気音が、どこか心地よい。
「よいしょっと」
それが終わると、今度はベッドの敷布団を持ってベランダに出る。
「うわ、寒いなぁ」
吐く息は白い。冬の足音は日を追うごとに大きくなっているような気がする。
雪など別段珍しくもない。毎年毎年降るものだ。
だがこの季節になると、雪が降ってくるのを待ち望んでいる自分がいる気がして、なんだか不思議な気持ちになる。
「これでよし」
ベランダのフェンスに敷布団を掛け、布団叩きで軽く叩いて終了。
空はどこまでも青く、太陽はこの寒さに負けじと高く昇っている。今晩はふかふかの布団でぐっすりと眠れそうだ。
「今日は何だかいい日になりそうだな。……お?」
天気が良い日は気分も弾む。
いいことの到来を知らせるように、ズボンのポケットに入れた携帯がバイブレーションを始めた。
「稔の奴かな?」
液晶をろくに確認もせず、優一は電話に出た。
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