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「……へ?」
温風にそよがれながら、優一は間抜けな声を上げた。
『ど、どうしたんですか?』
「いや、あっさりしているなと。随分改まってたから、よっぽど深刻な話なのかなと思ってたから」
女の子が男の子を遊びに誘う。馴れた相手とはいえ、やはり勇気のいること。
そういった機敏を察せないのが、塚越優一という男である。
『よっぽど深刻な話なんです!!』
携帯の向こうから思いもよらぬ大声が響いた。
『少なくとも、私にとっては!』
「あー。うん。ごめん」
携帯を耳から離していた優一は、耳鳴りに苦しみながらも言葉を続ける。
「今日は暇だから、全然構わないよ」
『本当ですか!?ありがとうございます!』
怒ってみたり、喜んでみたり。
今日の千歳は、何だか慌ただしい。
『じゃあ、11時に駅前に集合で!遅れたらお昼を奢ってもらいますからね?それでは!』
「え?あ、ちょ――」
要件を早口で伝えると、千歳は早々に電話を切ってしまった。
「忙しい人だなぁ」
苦笑いを浮かべながら優一は携帯を閉じた。
「デートのお誘いだってよ。珍しいこともあるもんだ」
温風を吐き出すファンヒーターに語りかける。
出会った当初はおどおどと人見知りをして落ち着きがない、という印象を受けた。
最近では人見知りもすっかりなくなってクラスメートたちとお喋りをしている姿もよく見かける。稔情報では、男子生徒からクラスの垣根を超えてなかなかの人気を誇っているらしい。
そんな女の子が、わざわざ自分を遊び相手に指名してきたのだ。
「……つつもたせってことは、ないよな?」
随分な言い草である。
優一の発言に反発するように、ヒーターの給油サインが鳴り響いた。
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