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駅前は土曜日ということもあり、いつも以上に混んでいた。
この駅を中心に商店街やビジネス街が発展し、それを囲むように住宅街が軒を連ねる。休日は、排水溝に吸い込まれる水のように、どっと人が集まってくる。
片田舎のこの町で一番栄えている場所。混雑するのは当然と言えよう。
「十時四十五分」
皆が言う『駅前』とは、大抵『駅前公園』を指す言葉である。
駅の西口を出たすぐ目の前にあり、噴水やベンチが設置してあるので、待ち合わせにはぴったりな場所だ。
優一も例に漏れず、噴水の前で腕時計とにらめっこをしていた。
「ちょっと早かったかな」
待ち合わせ時間の十五分前に到着。自転車は止める場所がないので歩きで来たが、どうやら余裕を見すぎたらしい。
西口の方に目を凝らしてみても、千歳の姿は見当たらない。
「ま、待つとしますか」
何より、相手を待たせるのは申し訳ないが、自分が待つ分には一考に構わないというのが優一のスタンス。
くるりと向きを変え、噴水を見つめる。
噴水は一定の時間を置いて、出る水の量が大きくなったり小さくなったりする。
今はちょうど大きいとき。
日光に照らされた水しぶきが青空に向かって舞い上がり、きらきらと輝いていた。
タイミングさえ合えば虹が見えそうだ。
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