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あと少しすれば聖夜が訪れる。
クリスマスの夜になると、この噴水は赤くライトアップされて、恋人たちをさらに熱く燃え上がらせるのだという。
「クリスマスねぇ……」
自分にはまったく関係のないことだと優一は割り切っていた。
この男、色恋沙汰にはとんと縁のない人間である。
ついでに言えば、無宗教なのでキリストの誕生日だからといって祝う気もない。
プレゼントを貰うような年でもないので、クリスマスはちょっとお祭り気分になるような、そんな認識で彼は動いている。
「今日はどこにいこうか」
「どこでもいいよ。孝之と一緒なら」
というのは建前で、このように仲睦まじいカップルが自分のうしろを通過すれば、自然とその姿を目で追い、どす黒い感情がふつふつと沸き上がってくる。
(ガムでも踏んづけてくれますように)
独り身であるが故の嫉妬、寂しさ、やるせなさ。
それぞれを適当にブレンドして、優一は恨みのこもった念を送った。
噴水はちょうど小さくなるときに入っていた。
待ち合わせの時間は、もうすぐ。
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