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例えば稔は、なりが良くて頭もいいのに、さっぱりモテない。
操は厳しいように見えるが、話してみるとけっこういいやつ。
平民に見えて実は魔法学の権威の息子だという男もいる。
人には大なり小なり意外な一面があるものだ。
(それは分かってるんだけどさ……)
優一が今目の当たりにしている光景は、二十一世紀初頭にして今世紀最大の発見かもしれない。
「あ~……あ?」
優一の視線の先にいた千歳は、今まさにハンバーガーにかぶり付こうとしているところだった。
「私の顔になにか付いてますか?」
視線に気づいた千歳が、ハンバーガーの向こう側から問い掛けてきた。
「や。なんでもないよ」
視線を反らし、優一はフライドポテトを咀嚼した。
「そうですか。じゃあ、改めて」
と、千歳は口を大きく開けて今度こそハンバーガーにかぶり付いた。
「おいしい!」
シンプルかつストレートな感想。幸せそうな表情と相まって、どこぞのグルメリポーターよりも上手いリポートだと言えよう。
見た者なら誰もが食欲をそそられる。
その食いっぷりを、つぶさに見てさえいなければ。
(ありえんだろ!)
優一は心中で叫んだ。
彼がこの店に来て注文したものは、ハンバーガーとフライドポテトのM、さらにはコーラのMである。
千歳も同じようなものを注文するかと思ったが、その予想は大きく外れることとなった。
千歳が注文したのは、ハンバーガー、チーズバーガー、フィッシュバーガー、あとはチキンナゲットにポテトとコーラ。サイズは当然Lである。
学園での昼食の様子からは、まったく想像出来ない量だった。
しかも彼女は、その量をほんの一息で、優一が自分の分を食べている間にあらかた食べてしまった。
あとは今ぱくついているハンバーガーと、コーラとポテトが少しばかり残っているだけである。
(人類の神秘……ということにしておこうか)
あの小柄な体のどこに収まっているのか。答えの見えない思考に終止符をうち、優一はコーラのストローに口を付けた。
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