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「驚きました?」
「えっ?」
ハンバーガーをすっかり食べ終えてしまった千歳は、ナプキンで口を拭きながら優一を見た。
その目はいたずらっ子のそれのような無邪気なもの。
「こんな量を女の子がって、顔に書いてありますよ」
表情に表したつもりはなかったが、どうやらお見通しだったらしい。
「……ごめん。正直に言えば」
もはや隠すことは不可能。
優一は素直に頭を下げた。
「いえいえ。私は怒ってるわけじゃありませんから」
千歳は残ったポテトをぱくつき始めた。
「そうか。それを聞いて安心した……かな?」
優一は再びストローに口をつけた。
「立花さんはこういうのよく食べるの?」
「いいえ、そんなに頻繁には食べませんよ」
千歳もコーラを一口飲んで続ける。
「父が健康とかにうるさくて、外食なんかも滅多にしません。ファーストフードなんて、こういう機会でもなければ食べられませんよ」
「ああ、そういえば」
千歳の父は医師である。
千歳と初めて会ったときにそんな話をしていたことを、優一は思い出した。
親として、さらには医師として、娘の身を案じているのだろう。
「買い物とかもうるさいんですよ。冷凍食品は使うな、生鮮は国産品にしろ、無農薬のものにしろって。自分では料理なんて全然しないくせに」
呆れたように言う千歳だが、その顔に嫌悪の感情は見えない。
娘として、父の気持ちを汲み取っているのかもしれない。
「だからでしょうかね。たまに食べる時、ついついたくさん頼んじゃうんです」
「なるほどね」
学園での弁当はそれほどの量ではない。もしかして、普段は食事の量を制限しているのだろうか。
疑問に思ったが、わざわざ訊くほど優一は野暮ではない。
「それに、時々恋しくなる時がありません?こういう大衆的な、大味で安っぽい感じのもの」
おそらく本気で言っているのだろう。
言葉の端から悪意や嫌味は感じられないし、そもそも彼女はそんなことを言う人間ではない。
「ははは……」
彼女を家まで送り届けた時もそうだが、一応の一般庶民である優一は、格差の壁というものを感じざるを得なかった。
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