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からん、と引き戸のベルが鳴る。
「なるほど……」
驚きとも感動ともいえない唸りを優一が上げる。
外観とは違い、店内はいくらか落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
どうやらピンク色なのは外側だけなようで、内側は木目調の目立つシックな造りになっている。
売っているものはファンシーな文房具や小物。奥のガラスケースの中には指輪やネックレスなどが入っているらしい。
たしかに女の子が好きそうなものだ。
(男子禁制ってことなのかな?)
千歳の話だと男もプレゼントを買い求めてここに来るらしい。
いいものが欲しかったら、多少の恥ずかしさを乗り越えてこい。
見た目からそう訴えているのかと優一は邪推してみたが、別段答えが分かるわけでもない。
早々に思考を切り上げることにする。
「意外と空いてるね」
ぬいぐるみを眺めて話している女子たちや、奥で指輪を見ているカップルが数組というところだろうか。
人気の店とのことだが、店内は盛況といえるほどの混雑はしていなかった。
「午後からもっと混んできますよ。今はちょうど、お昼時ですから」
「ああ。そっか」
腕時計は十二時を少し過ぎたあたりを示している。
たしかに昼食時だ。
人々は買い物を一時中断し、暫しの休憩に入る時間帯。
それなら空いていることも納得出来る。
「もしかして、そこまで計算に入れて?」
「さあ?どうでしょう?」
優一の問いに、千歳は悪戯っぽい笑みを返した。
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