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「キーホルダー?」
千歳の手の先にはアルファベットを模したキーホルダーが掛けられていた。
シンプルな作りのそれは、派手さがないぶん他の商品と比べるとやや味気ない印象を受ける。あえて女の子をターゲットにしたようなものにも見えない。
掲げられた値札を見てみても、それほど高価なものではない。むしろ安物といっていいだろう。
小物売り屋、ということで申し訳程度に売られているこのキーホルダーの、一体どこに惹かれたのか。
優一は疑問に思った。
「それ、欲しいの?」
「えぇ……まぁ……」
何とも歯切れの悪い返答。
千歳は商品を手に取るでもなく、手を添えて揺らしてみたり、指で輪郭をなぞってみたり、そんなことを繰り返している。
「私の名字は立花。頭文字は『T』じゃないですか。だから、その……」
「ああ、そういうことか」
たしかに千歳がいじり倒しているキーホルダーは『T』。自分のイニシャルだから欲しい、ということだろうか。
「そう考えると、俺のイニシャルも『T』だね。塚越だから」
「そ、そうですね」
優一の言葉にぴくりと体を震わせ、千歳は優一に向き合った。
「あ、あの!」
突然の意を決したような言葉に面喰らっている優一を差し置いて、千歳はキーホルダーを指差して言った。
「い、一緒に遊んだ記念に、お、お揃いのものを買いませんか!?」
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