少女の決意

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「ありがとう、ございます」 店を出たあとも千歳は買ってもらったキーホルダーをじっと見つめていた。 「はは。そんなにされると少し恥ずかしいかな?」 優一は恥ずかしそうに鼻を掻いた。 「それに立花さんには悪いけど、もっと高いものでもよかったんだよ?」 二つを足してもそう高くはつかない。せいぜい野口英世が一人飛ぶぐらいだ。 遠回しではあるが、優一は安物といっているのだ。 「いいえ。そんなことはありませんよ」 しかし千歳はゆっくりと首を横に振ると、キーホルダーをいとおしそうに胸元に引き寄せた。 「これは大切なものなんです。とっても、とっても」 「そ、そうなの?」 その発言が一体なにを意味しているのか、優一には分からない。 「はい。とっても」 ただ、千歳は向日葵のような笑顔。 たしかに安物ではある。しかし、彼女は心の底から嬉しそうだった。 「……うん。そこまで喜んでもらえると、俺も嬉しいよ」 先の発言を、優一は少し恥じた。 千歳が喜んでいるのならそれでいい。彼女なら大切にしてくれる。 買った価値はあるというものだ。 「ところで、これからどうするの?」 だったらこの話はこれでお仕舞い。 あとのことは彼女に任せる。 「そうですね。ちょっと歩きますけど、私のとっておきの場所に案内します」 「とっておきの場所?」 「はい」 一体どんな場所なのだろうか。 千歳の顔を見る限りでは期待してもいいだろう。 「じゃあお願いしようかな?」 「はい」 千歳は大きく頷くと優一の少し前に立った。 (よかった。これで私は……) さっきの笑顔が一変、彼女の顔は決意に満ちた表情になっていた。
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