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「おー、ここがとっておきの場所かぁ」
「はい。そうですよ」
上り坂の先は開けた場所になっていた。
駐車場でも作ろうとしたのだろうか。平らに舗装されて、広々とした場所。どうやら行き止まりとなっているらしい。
絶壁を隔てる鉄柵。それ以外には何もない。
「こんなところがあったとはねぇ」
「塚越君はこっちに住んでいるわけではないですからね。知らないのも無理ないです」
鉄柵の向こうに広がるのは住み慣れた町。といっても、学園へと向かう坂から見える景色とはまた違う。
ここから見えるのは主に町の産業を担うオフィス街である。
駅の近くには、片田舎には些か不釣り合いな高層ビルが立ち、それを境に様々な低いビルが軒を連ねている。
千種川沿いには町工場があって、その向こうに見えるのは大きな煙突。白と赤の横縞模様に彩られたそれは、ごみ処理場の煙突だ。
土曜日だというのに、今にも煙が出てきそうだった。
「いい眺めだね。学校からのしか知らなかったよ」
優一は鉄柵のへりを握った。傾き始めた太陽に照らされて、高層ビルから影が伸びる。その様は、まるで巨大な日時計のようだった。
「田舎だけど、少し都会みたい。いいですよね。こういうの」
優一の隣に、立つ。
「ありがとう。これはいい思い出になるよ」
夕日に照らされた彼の顔は、少年のようにきらきらと輝いていた。
「塚越、くん」
鼓動がうるさいほどに聞こえてくる。
口がからからに渇く。
だけど。
それでも。
「あなたに、伝えたいことがあります」
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