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(……雨?)
ぽたぽたとアスファルトを濡らす水滴。
おかしいな。空は晴れているのに。
どうしよう。傘なんて持っていないのに。
でも、頭を冷やすにはちょうどいいかもしれない。このまま帰ろう。
濡れた顔は、きっと人は見せられない。下を向いて歩こう。
「あれ?立花さんじゃん。こんなところでどうしたの?」
そう思った矢先、声を掛けられてしまった。
無視することは出来ない。
「た、高橋君……」
滲んだ視界に映ったのは、モコモコのダウンジャケットを着て、マフラーを顔の下半分まで巻いている、親友の姿だった。
「……泣いてるの?」
出来れば言ってほしくなかった。
その言葉でスイッチが入ってしまった。
彼が怪訝な顔をしている、ような気がした。
確認は、出来なかった。
だって、もうなん、にも、見えな、い、から。
「わたし、わた、し……。頑張りました。頑張りまし、た。でも、でも……。駄目でした。駄目、だったんです。あの人、が、選んだのは、私じゃなくて、ほ、ほかの人で、私、じゃなか、った、んです……。だけど、だけ、ど、こ、後悔は……後悔は……」
一体なにを言っているのだろう。意味不明な言葉の羅列。
だけど、今はもう、それも出来なくなってしまった。
「う……く……っふ……う……ううっ……う……」
とめどなく溢れてくる涙。嗚咽。
泣いては駄目だ。余計に悲しくなってしまうから。
だけど止められない。
高橋君がいけないんだ。
どうしてこんなところにいるの。なんでそんなことをいうの。
馬鹿。
高橋君の馬鹿。
「……そっか」
彼は、今の言葉で全てを理解したのだろうか。
嗚咽の合間に、優しい声が耳に届いた。
「カラオケでも行こうか。大声を出せば気分もすっきりする。奢るよ。遠慮は許さないからな?」
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