少女の決意

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「お前が立花さんを振ったところまで、だな」 優一の隣に立った稔も、フェンスに体重を預けた。 「そうか」 沈黙。 稔は責めるでもなく、空を仰いでいる。 怒っているような雰囲気はない。なにかを確認しにきたような、そんな感じだ。 「お前、どうするんだ?」 「……は?」 稔が優一の方を向いた。 「お前は一人の女の子の気持ちを無下にしたんだ。その責任、どう取るつもりだ?」 「……」 責任をどう取るつもるなのか。 稔は、千歳と付き合え、ということを言っているのではない。 千歳を振ってまで、貫いた自分の気持ち。それをどうするのかと訊いているのだ。 「いずれ、いずれだ。今すぐってわけにはいかないけど、必ず伝える」 今までの関係を打ち破る度胸。心地よい今の関係をぶち壊す覚悟。 それが、自分には足りない。 しかし、それを恐れずに告白をしてくれた少女に、勇気をもらった気がする。 だから、いずれ。 いつになるかは分からない。しかし必ず伝えると、ここに誓う。 「……なるほどね」 優一の言葉を聞いて、稔はニヤリと唇の端を吊り上げた。 「お前もいっちょまえの男になってきたな。それを聞いて安心した」 親友の覚悟をしかと受け止め、稔は反動をつけてフェンスから離れた。 「帰ろうぜ。こんなところにいつまでもいたら風邪引いちまうよ」 「呼び出した奴がそう言うかね。俺はお前よりも長くここにいたんだけど」 「うっせ。モテ男には鉄槌だ。なんでお前ばっかモテるんだよ。俺だってなかなかにいい男なのに」 「いい男なのは認めるが、自分で口にするのはどうかと思うぞ……」 それぞれの思いを乗せて、北風はただ吹きすさぶ。 傾く太陽は、空を赤く染めていた。
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