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「へっくし!」
「どうしたの?風邪?」
「うーん。だれかが俺のことを噂しているのかもしれん」
「そういうことは鏡を見てから言いなさい」
本格的な冬が到来した。
天気予報を見れば等圧線が筋のように日本列島を横断し、西高東低の姿を呈している。
それに伴い、この町にも雪が降った。
一夜にして町を銀世界に変えてしまうほどの大雪。
週の始めの月曜日は、些か憂鬱な登校日となってしまった。
「ひどいこと言ってくれるな君は。俺だって純情な男の子なんだけど」
学園に向かう坂も今日は一段と険しく感じられる。
優一は新雪を踏みしめながら重い足取りで歩いていた。
「気持ち悪いこといってんじゃないわよ。朝っぱらから」
優一とは対照的に、操の足取りはすこぶる軽快だった。
雪原で跳ねるうさぎのように、操は優一の隣を歩く。
「元気いいね。まったく」
呆れたような声を上げつつも、その姿に元気を貰っているような気がするのもまた事実。
坂の口で合流して一緒に登校する。そんな一時が、優一には楽しみとなっていた。
「そうかしら?あんたが年寄りくさいだけじゃない?」
減らず口にも悪意は感じられない。操もまた、楽しんでいるのだろう。
今日は快晴。
雪の照り返しが眩しい朝だった。
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