焔の帝

4/49

90799人が本棚に入れています
本棚に追加
/396ページ
「おはよう」 「おはよーさん」 教室に入る時にあいさつをするのは、もはや日課となっていた。 といっても、別段返事を期待しているのではない。あくまで気分的な問題だ。 故に、友達たちの談笑を邪魔しない程度の声量。 それでも会釈や返事をしてくれる友人に、こちらもまた返答しつつ、二人は自分の席に向かう。 「よっ、おはよ」 「おはようございます」 先に席についていた稔と千歳が声を掛ける。 「おはよう」 「おいすー」 これにもあいさつを返し、二人は席につく。 これでいつものメンバーが揃った。 「しっかしついてないよなぁ。週明けに雪の積もる中を登校なんてよ」 机に腰を掛けている稔は、忌々しげに窓の外に目を向けた。 ストーブの暖かさで曇ったガラス越しに、真っ白に染まった校庭が見える。 「だったら蒸発でもさせてきたら?高橋君、炎使いでしょ?」 操は鞄から教科書類を出しながら言った。 「馬鹿いっちゃいけねぇ。俺の力は、そんなどうでもいいことに使うわけにゃあいかないんだよ」 腕組みをして胸を反らす稔。 「そうですかねぇ。私はけっこう好きですよ。雪」 稔の戯言はいつものことなので、皆それほど聞きとめてはいない。 「塚越君はどうですか?」 千歳もまた例外ではなく、稔の発言を軽くスルーして優一に話をふる。 「……塚越君?」 しかし優一は、鞄から出した教科書を手に持ったまま、じっと眉間に皺を寄せていた。 瞳はどこか一点を見つめるではなく、間隔を置いて左右に動いている。 何かの気配を察知し、姿を探しているようだった。 「……ん?あぁ、ごめん。聞いてなかった」 隣の少女の不安げな視線に気付き、優一は緊張の糸を解いた。 「また、なの?」 後ろの席から、操。 彼女の言うとおり、最近の優一には、こういうことが多いのだ。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90799人が本棚に入れています
本棚に追加