焔の帝

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優一が察しているのはエーテルの存在。もっといえば、かつてこの地を牛耳っていた精霊。 明神学園創立時に先祖たちが封印したという、意識を持つエーテル。封印の軛(くびき)から解き放たれ、それらが現世に再臨してからもう随分と時間が流れた。 「まだ居るってことだよな」 風と、土と、水。 これまでに屠った精霊の数は三体。 エーテルの属性は四種類。 あと一体、まだ生きている計算になる。 「動きを見せてるってことなの?」 操が訊く。 「機会を伺っているのかもな。もしかしたら、風の便りで俺たちの噂を聞いているのかも」 その気になれば今すぐにでも可能なはず。しかしそれをしないのは、明神学園の生徒や教師陣を警戒しているからなのかもしれない。 いくら精霊が強力だからといっても、この学園は精鋭の巣窟。 それに、ここには「無」を持つ者もいる。 一致団結し、多少の犠牲をいとわないような反撃をされれば、果たして結果はどうなるのか。 「ま、その方が助かるんじゃね?」 重たくなった雰囲気を払拭するように稔が机から飛び降りた。 「今この学園なにが起こっているのか。それを知ってる奴はそうそういない。それに、俺たちは校長先生のお眼鏡にかなったってことだろ?騒ぎは大きくしない方がいいさ」 稔が言い終わるのと同時に、始業を知らせるチャイムが鳴った。 「おーっす。寒いなかお勤めご苦労さん」 担任の水野明子教諭が入ってくる。 「さっさと席につけー。出席とるぞー」 雑談を切り上げ、自分の席につく生徒たち。 「塚越君」 その喧騒の中で、千歳がひそひそと耳打ちをした。 「あんまり思い詰めちゃダメですよ。私たちもいるんですから」 「……そうだね」 頼もしい言葉を聞いても、気分はいまいちすっきりしない。 外は快晴。しかし、黒い雨雲のような不安が優一にはまとわりついていた。
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