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誰もいなくなった廊下に、上履きが床を叩く音だけが響く。
日がどっぷりと暮れ、蛍光灯の頼りない明かりだけが照らすなか、四人は無言で歩いていた。
何しろ急な話である。様々な事柄を疾風怒濤のごとく突き付けられた。
精神はまだ未熟である彼らがそれを咀嚼し理解するには、まだまだ時間が足りない。
「……まさか」
その沈黙を破ったのは操だった。
「お爺ちゃんが、そんな人だったとはね」
その声にいつもの気丈ぶりはない。
俯きがちに歩く姿は大変弱々しく、人混みの中で母親とはぐれてしまった小さな子供のようだった。
この中で一番ショックを受けているのは、たぶん操であろう。
今まで尊敬し慕ってきた祖父が、学園で起きた問題を生徒に丸投げしてしまうような人だとは思ってもみなかった。
幼き日より誇りに思ってきた桐生の血が、実はこんなにも頼りないものだったとは。
情けない。
ふがいない。
そう思わずにはいられなかった。
「お前は悪くない」
自責の渦に飲み込まれていく操の耳に、優一の声が届いた。
「たとえ水野先生の言っていたことが事実だったとしてもお前は悪くない。お前は今まで、十二分に頑張ってきたじゃないか」
「そうそう。それに校長先生は、俺たちの力を信用しているから今回の仕事を任せてくれたんだろ?丸投げって言ったら聞こえが悪いけど……。それはすごく、光栄なことだと思う」
「たしかにショックはありますけど、私たちはあなたのことを責めたりはしませんよ。絶対に」
優一に稔に千歳。
皆それぞれに迷いがあり、まだまだ受け入れられていない部分があるだろう。
しかし、それでも声を掛けてくれる。
情けや同情といったものではない。
それは分かっている。
「そう、だといいけど……」
分かってはいるけど、受け入れるには時間が必要だった。
窓の外を見れば、空には星も月もない。
ぽっかりと開いた穴のような漆黒の闇だけが、夜空を支配していた。
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