焔の帝

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すっかり寝静まった明神学園。 校舎の一角だけに煌々と明かりが灯っている。 室内に人影は五人。そのうち三人はストーブを囲み、こっくりこっくりと船を漕いでいた。 「お前は寝なくて大丈夫か?」 明子は窓際に立つ優一に、コーヒーの入ったカップを差し出した。 「寝させる気なんてないじゃないですか」 笑いながら受けとると、優一は一口それを飲んだ。 「神経が昂っているのか、眠気は感じませんね」 そして再び窓の外へと目を移す。 「まぁ、寝ていても何か起きれば大慌てで目を覚ますと思いますけど」 今宵は満月。 外はひどく明るい。 「ということは、まだ何も変化はないと」 ここからは中庭を挟んで教室棟が見える。 月明かりに照らされた校舎は夜だというのに色濃く影を落としている。 今にもこちらに迫ってきそうな、そんな錯覚を覚えてしまいそうだった。 「そうですね。くすぶってる感は相変わらずですが」 「そうか」 明子は自分のコーヒーに口をつけた。 「まぁ、何か起こったら私が守ってやる」 生徒たちを巻き込んでしまったことは、本当に自責の念に駆られる。 本来ならよく遊び、よく勉強し、青春を謳歌していればいいのだ。それが高校生としての務め。わざわざ危険なことに首を突っ込まなくてもいい。 今回のことは自分も含め教師陣の体たらくが原因。解決したら何らかのアクションを起こすべきだろう。 「なにいってるんですか。守りは俺の役目でしょ?なんなら精霊まるごと吸収してみせましょうか」 しかし、巻き込まれた本人はこうして冗談を言えるほどに余裕があるらしい。もちろん、内面では様々な不安や緊張があるだろう。 しかし、それを表に出さないようにとしている姿が、申し訳ないのと同時に、嬉しくも頼もしくも思える。 「そんなことして死んでも知らんぞ?」 「ちょっとちょっと。さっきは守るとか言ってたのに知らんとは何事ですか?無責任だなぁ」 もし望めるのなら、今夜は何も起こらないことを。 優一の頭を小突きながら、明子は満月に願いを投げた。
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