焔の帝

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はっきりしなかった気配から霞みが取れた。それこそ、朝靄に包まれた町が朝日に照らされて晴れ渡ったかのように。 だが、その先に待ち構えているのは燦然と輝くものではない。 暗黒の中に燃えたぎる、紅蓮の業火。 エーテルのイメージはそんな感じだった。 鳥肌が立ち、背中に冷や汗が流れる。 今までの精霊とは何かが違う。優一はとてつもないプレッシャーを感じ取っていた。 「ど、どうしたの?」 訊いてきた操を片手で制す。稔も千歳も、ただならぬ雰囲気を察したに違いない。 室内の空気が明らかに変わっている。しかし、取り乱してはいけない。 「稔、水野先生を起こしてきてくれ」 背中で指示を飛ばし、意識を集中させる。 それは人が歩くぐらいの速度で、ゆっくりと南へ動いている。 今までの精霊のように突然こちらに姿を現さなかったところを見ると、もしかしたらこちらの存在に気付いていないのか。あるいは知っていて誘っているのか。 どちらにせよ、この錬金学研究室に向かっている様子はない。 「……奴は南に進んでいるみたいですね」 優一が振り返ると、今まで寝ていたとは思えないほど険しい表情をした明子が立っていた。 「どうやら行動を起こしたみたいだな。南ということは、校庭にでも向かっているのか?」 「分かりません。とにかく追ってみるしかないかと」 バチリとストーブの電源が落ちた。 どうやら灯油が切れたらしい。 「いよいよか。相手は相当の強者と見える。今までの精霊とは、一味も二味も違うかもしれん」 明子は教え子たちの顔を見渡した。 立花千歳は下唇を噛み、決意に満ちた顔をしていた。 高橋稔は拳をぎゅっと握り、押し寄せてくる恐怖をたぎる闘志で押さえつけていた。 桐生操は明子と目が合うと、一回だけ深く頷いた。 塚越優一はいつもの飄々とした姿勢を正し、真剣な眼差しを向けていた。 「だが、これだけは誓う。自分から協力を仰いどいて調子がいいかもしれないが、お前たちのことは私が守る。お前たちも、生き残ることだけを考えろ。……行くぞ」 まだまだ続く長い長い夜が、こうして幕を開けた。
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