焔の帝

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『……来たか』 雪の積もったグラウンドの真ん中にそれはいた。 ぼさぼさの黒い髪。 肩口ほどの長さの服からは、筋骨隆々とした腕が見えている。 どこかの胴着のようなズボンも、これまた黒。 『我が名はサラマンダー。紅蓮の炎を統べる、火の精霊』 瞳の色も、これまた黒。 鍛えぬかれた体をした、壮年の男性にしか見えない。 「サラマンダー……」 操が反芻する。 降りしきる雪と白に染まった地面のせいか、サラマンダーの姿はひどく映えて見えた。 「トカゲみたいな姿をしていると思ったが、やっぱり本物は違うみてぇだな」 『それは貴様ら人間が作ったもの。一緒にするな』 無表情な顔をそのままに、サラマンダーの瞳が稔を睨み付けた。 「う……」 たじろぐ稔。 瞳に宿るのは並々ならぬ闘志と殺意。 姿形は人間と一緒だが、中身はまったく別のもの。そのことを改めて実感させられる。 『この場所は、私が住まう聖地だった。貴様らに封印されてしまったのは些か以上の体たらくだったが、どうやら随分粗相を働いてくれたらしいな』 サラマンダーの足元の雪が溶けだした。宙を舞う雪は、サラマンダーの体に触れると音を立てて蒸発する。 『だが、まぁよい。本来あるべき姿に戻せば、それでよい』 地を這うような低い声には怒気が込められている。無風であるにもかかわらず、ぼさぼさ黒髪が空中に浮かび上がるように動いている。 それはサラマンダーの闘志の表れか。 火の精霊は静かに、しかしはっきりと、怒り狂っている。
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