焔の帝

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「はっ!」 先陣を切って繰り出されたのは稔の一撃。 胸元で透明なボールを抱えるように両手を構え、そこに炎を集約させる。そして、十分に集まったところで発射。 金色の火の玉は軌道上を舞う粉雪を蒸発させながら一直線にサラマンダーに向かって飛ぶ。 その存在に気付きながらも、サラマンダーは微動だにしなかった。 『ふん』 直撃を受けてもなお動じない。サラマンダーの体にぶつかった火の玉は壁に投げつけられた卵のようにひしゃげると、空中に四散して跡形もなく消滅した。 「力の差は歴然だと思っていたが……」 稔は歯噛みするしかない。 やはり、同族同士では圧倒的に不利だった。 『ぬるい。真の炎とは、こういうものだ』 動作などなかった。 サラマンダーが横目で稔を睨むのと同時に、どこからともなく火の玉が発射された。 稔の炎が金色なら、サラマンダーの炎は赤。それも血の色のような、真紅のなかの真紅。 (やばい!) あまりに唐突な攻撃だったが故、防御の動作が間に合わなかった。 いや、それだけではない。 自分に向かって飛んでくる火の玉には、並々ならぬ力が込められている。それを感じ取ってしまった稔は、足がすくんで動けなかったのだ。(やられる!) 目を見張った瞬間、眼前に優一の後ろ姿が映った。 それと同時に、優一の体が軽く揺れた。 「大丈夫か?」 呆気に取られる稔に、優一は肩越しに声を掛ける。 「あ、ああ……」 返答を聞き、優一は満足そうに頷いた。 「一瞬のうちにこれだけの攻撃を仕掛けてくるとはな……。気を付けろ。今までの精霊とは格が違う」 火の玉の直撃を受けたと思われる、制服の腹の部分。 そこがかすかに焦げて変色していた。 「無」は相手の魔法を吸収する能力。本来なら跡がつくはずがない。 制服の焦げは、とりあえず吸収出来たものの、一瞬のうちにとまではいかなかった。 そのことの何よりの証拠だった。
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