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『ほぅ』
サラマンダーの表情が微かに動いた。
『それが「無」というものか』
しかし、驚いている様子はない。初めて見る能力に興味を示した、というところだろうか。
『なるほど。それがあれば、精霊にも多少は太刀打ちでき――』
言い終わる前に、サラマンダーは後ろに跳躍した。
直後、サラマンダーのいた地面に蹴りが突き刺さる。
「ちぃ。読まれていたのね……」
半ば地面にめり込んだ足を引き抜きながら、操は舌打ちをした。
彼女はかつて優一にしたように風の中に自分の身を隠し、そして、高々度から垂直落下の飛び蹴りを喰らわせたのだ。
『たわけが。舐めてもらっては困る。だがまぁ、人間にしてはやるほうだろう』
そう言うと、サラマンダーは千歳と明子に目をやった。
『貴様らは一体なにをしてくれるんだ?せいぜい退屈させるな』
態度も口調も傲慢そのもの。それは自分の力に絶対的な自信を持っていることの表れ。
「水の前で、火が勝てると思わないでください」
「窮鼠は猫を噛む。油断をしていると痛い目を見るぞ?」
しかし、サラマンダーの力は本物である。
千歳と明子が理解しているのはもちろんのこと。だからといって臆するわけにはいかない。
『ふん。来るならこい。五人いっぺんに相手をしてやる』
雪は、さらに強く降る。
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