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「まったく。強引なんだからなぁ」
下足に履きかえながら優一はぼやく。
水野明子は一年生の時からの担任だ。恩はそれなりに感じているが、足を向けて寝られない程ではないと優一は認識している。
放課後の補習は錬金学の実験がある日の日課であり、薬草を採りに行くのもまた然り。
サボりたいのは山々だが、あとが怖いので出来る訳がない。
「籠はっと」
もっとも放課後の補習は、錬金学が壊滅的にダメだった優一を進級させる為に明子が取り計らってくれたものであり、優一が一年分の学費を無駄にせずに済んだのは明子のお陰である。
無論そのことに、進級の危機にあった本人は気付いていない。
「さてと、早いとこ裏山に行こう」
放課後の校門は実に色々な生徒が居る。
自転車にまたがり、今にも走りだそうとしている者。
待ち合わせだろうか。門に寄り掛かって空を見上げている者。
部活の練習でトランペットを吹いている者。
「よう!まーた補習か?」
馴々しく声をかけてくる者。
そこそこハンサムな顔立ちで、制服をだらしなく着くずしている。
「……稔か」
高橋稔(たかはし みのる)。
優一とは中学からの付き合いである。
「何だよ。あからさまに嫌そうな顔して」
「補習で憂鬱な放課後に、お前の顔を見てさらに憂鬱になった」
「ひでぇ言い草だなおい」
稔はニヤケ面を崩さない。
「で、お前はこれからどこに?」
「見りゃ分かるだろ。裏山にマンドラゴラを採りにいくんだよ」
優一は籠を掲げて言う。
「ほうほう。毎度ご苦労なこった」
大げさに頷く稔。
「仕方ねぇ。俺も行ってやるよ」
そんな稔を優一は疑念を持った目で見つめた。
「何も奢ってやらんぞ?」
「てめぇな、人の厚意は素直に受け取っておけっての」
優一の言葉を稔は軽く受け流す。
何だかんだ言っていい奴……なのかも知れない。
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