回顧

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「ところでお二人さん」 ふと思い出したように、稔が優一と操を見る。 「なんで今日弁当無いの?」 このメンバーでの食事場所はいつも教室だ。今日はなぜか二人とも弁当が無いということなので食堂に移動している。 なお、食堂にもかかわらず何も買わずに堂々と弁当を広げていた稔は、調理担当のおばさんに思いっきり睨み付けられている。 当の本人は気付いていないだろうが。 「母さんが寝坊したんだよ」 優一がスプーンを立てて回しながら言う。 「俺が起きた時、母さんはまだ寝てた。時々やるんだよ。あの人」 優一の口調からすると、どうやら今回が初めてではないらしい。 「ほうほう。相変わらずのドジッ子だな。いいね!」 稔はグッと親指を立てた。 「お前は女なら誰でもいいんか?」 優一は呆れと哀れみと侮蔑の念を込めた目で稔を見た。 「ふふん。若けりゃいいって問題ではないのだよ。で、桐生さんは?」 稔は優一の視線を軽くいなして、今度は操に訊いた。 「えっとね……」 操は恥ずかしそうに俯く。 「……寝坊しちゃったのよ。私が」 「ふぅーん。……って、私?」 優一はスプーンを回す手を止めた。 「お前、自分で弁当作ってるのか?」 「そうよ!何か悪い!?」 操は若干赤くなった顔を上げて、優一を睨み付ける。 「誰も悪いとは言ってないが……」 困惑する優一。 「何をそんなに怒ってるんだ?」 「怒ってなんかないわよ!!」 操はそっぽを向いてしまった。 「わけが分からん」 「ま、人生色々あるさ」 稔がいつものニヤケ面で、優一の肩を叩いた。
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