回顧

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「……誰よ。あんた達」 地獄の底から響いてくるような声で操が訊く。 「こえぇな。せっかくの美貌が台無しだぜ?」 真ん中のツンツンが口を開く。 どうやらこのグループのリーダーらしい。 「おめぇみてぇないい女を怒らすような野郎は放っておいてさ、俺たちと遊ぼうぜ?」 いわゆるナンパというものだ。 普段の操なら丁重にお断わりしたかも知れないが、今の彼女は機嫌が悪い。 「どうする?カラオケでも行くか?」 自分が特大の地雷を踏んだことにも気付かず、ぬけぬけと近づいてくるツンツン。 「……」 そんな男の締まりのないヘラヘラ顔に、操は死刑を宣告した。 息を一つ吐き、少し力を入れる。 そして。 「ぐほっ!!」 男の腹に空気の塊を撃ち込んだ。 あえて刄などの形状を作らず、大量に集めた空気の質量での攻撃。 その衝撃は、軽めに見ても木槌で打たれた程度はあるだろう。 「ぐおおおおおっ!!」 腹を抱えてその場に蹲るツンツンヘアーの男。 「あ、兄貴ぃ!!」 途端に両脇の男が駆け寄ってきた。 「悪いけどねぇ。私は今、猛烈に怒ってるのよ」 操は憤然として男たちを見下ろす。 「ナンパならもっと軽そうな女にすることね。生きているだけでも有り難いと思いなさい」 そしてくるりと振り返る。 「さ、行きましょうか」 「うわぁ……。痛そうだなぁ」 稔は恐る恐るといった感じで男たちを見ている。 「まぁ、運が悪かったんだろうな」 優一は憐憫の情を込めた目で見ていた。 「ほらほら。さっさと行くわよ。あなたたちも喰らいたいの?」 「恐や恐や。行くぞ、稔」 「お大事にな!」 三人は揃って歩き始めた。 「待ちやがれぇ!!」 しかし、そう簡単にはいかなかった。 「……まだやんのか」 優一が呟き、三人は頭を回らす。 「てめぇら……もう許さねぇぞ!!」 両脇の男が心配そうに見つめるなか、ツンツンヘアーは立ち上がる。 腹を押さえ、苦しそうな顔をしているが、怒りの色は十分に見て取れた。
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