回顧

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「へぇ。高橋君って炎エーテルを持ってるんだ」 「おぅ!暇を持て余して自主トレしてたらこんなんになっちまったぜ!」 稔は軽いステップでくるりと回り、操に向かってグッと親指を立てた。 「お疲れさん」 稔の肩をポンと叩き、優一は不良たちに近づく。 「まぁそういうわけだからさ。大人しく帰ってくれ」 「あ……あぁ……ん?」 ツンツンは優一の顔を認めると眉間に皺を寄せた。 「お前、どっかで見たことあるな」 「は?」 優一も眉をひそめる。 「なに?お前の知り合いさんか?」 後ろから稔の声が飛ぶ。 「知らん。少なくともこんな知り合いは居ないぞ。俺は」 肩ごしに稔と操を見やり、優一は正面を向く。 「うわっ」 いつの間にかツンツンが立ち上がり、優一の顔を至近距離からまじまじと見つめていた。 ちなみに両脇の二人はいつの間にか居なくなっていた。隙を見て逃げたらしい。 「うーん……」 そんなことはつゆ知らず、ツンツンは優一の顔をずっと見続けている。 「気持ち悪いなぁ」 しかめっ面になった優一はツンツンから少し離れた。 「いい加減にしろよ。俺はお前のことなんか知らな――」 「ああああああっ!!」 ツンツンは優一を指差して大声を上げた。 優一は両手の人差し指で耳を塞ぎ、ツンツンの向こう側で通行人が振り返ったのを見た。 「うるさいな!」 優一の不満気な声を無視し、ツンツンははしゃぐように言った。 「お前塚越優一だろっ!」 「……まぁそうだけどさ」 なぜこんなチンピラが自分の名前を知っているのだろう。 疑問に感じたが間違ってはいないので、優一は頷いた。 「やっぱりそうか!いやぁ、まさかこんな所で再会するとはなぁ!」 はしゃぎ顔から一変、ツンツンは優一を見下すように笑った。 「いい加減名乗ったらどうなんだ?」 いきなり名指しされた上に見下すような顔を向けられた。 正直頭に来ているが、優一は努めて冷静に対応した。 ツンツンは何が面白いのか、そんな優一の姿を見てギャハギャハと下品に笑っている。 「俺のこと忘れちまったかぁ?加藤隆明だよ!」 「……あー」 優一はその名前に心当たりがあった。 もっとも、忘れる筈がない。 「あの加藤君か。『その節』は大変お世話になったな」 皮肉と自嘲。 その両方を込めて優一は愛想笑いを浮かべた。
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