回顧

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大通りを外れ、住宅街に入る。 市道には車の通りもなくひっそりとしていた。 しかし人の営みがないわけではない。 夕食(ゆうげ)の香りが塀の隙間を伝って漏れだし、静かではあるが和やかな空気が漂っていた。 (でも……) 何となく気まずい。 自分より数歩先を歩いている優一の後ろ姿を見ながら、操は居心地の悪さを感じていた。 さっきから会話がない。 自分から話し掛けようとしても、体が動かなかった。 驚いているのか、戸惑っているのか。 操はもどかしさを感じていた。 「……気まずいな」 稔があからさまに顔をしかめた。 「お前、何か隠してることがあったら言えよ。水臭ぇぞ」 操の隣で彼も同じような感覚を覚えていたらしい。 あるいは親友のいつもと違う姿を垣間見て、操以上に困惑しているのかも知れない。 「……嫌なところを見せちゃったかな」 優一はぴたりと足を止めた。 しかし振り返りはしない。 鞄を掛けた背中が、どこか遠くにあるような、そんな気がした。 「優一。昔、何かあったの?」 操はたまらなくなった。 そんな背中を見ていられなくなった。 悩みがあるなら頼ってほしい。 そんな願いも込めて操は訊いた。 「何か、か」 肩越しに、優一がちらりとこちらを見た。 「俺にも、言えないことはあるんだよ」 逆光は優一の顔に暗い影を落としていた。 穏やかな口調の裏に隠された、はっきりとした拒絶の意志。 横顔は、寂しさと悲しさを混ぜ合わせたような微笑だった。 「行こう。早くしないと勉強の時間がなくなる」 そして再び背を向けて歩きだす。 「……わけ分かんねぇ」 稔がぽつりと呟いた。
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