回顧

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「着いたよ。ここが我が家だ」 閑静な住宅街の一角に優一の家があった。 二階建の一軒家。 特に豪華でも粗末でもない普通の家だ。 「案外普通の家なのね」 操が意外そうに言う。 「優一のお父さんってけっこう稼いでるんでしょ?もっと大きな家だと思ってた」 「お前なぁ……」 優一はため息混じりに首を振った。 「ま、良家のお嬢様には庶民の暮らしは分からんだろう」 「誰が庶民だ。庶民ってなぁ俺みたいなのを言うんだよ」 稔は自慢気に胸を張った。 さっきまでの気まずい空気が嘘のように晴れていた。 まるで初夏の風が吹き飛ばしたかのように、爽やかに。 「ただいまー」 玄関のドアを開けた。 「おかえりー」 廊下のつきあたり、おそらく台所だろう所。 その扉が開き、一人の女性がスリッパをぱたぱた言わせながら出てきた。 「おかえり。優一」 そして満面の笑み。 長い髪を後ろで纏めていて、エプロンと眼鏡がよく似合っている。 ほんわかとした雰囲気を漂わせているこの女性の名は、塚越綾香(つかこし あやか)。 優一の母である。
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