回顧

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「よぅ。ここどうやって解けばいいんだ?」 稔は数学の問題が書かれたノートを優一に見せた。 「愚問だな。お前に分からない問題が俺に分かるはずないだろう?」 優一はノートに目もくれず即答した。 口調は確固たるもので、聞く者全てに「あぁ。こいつは数学出来ないな」と思わせるほどだ。 ただし、威張れるものではない。 「そんなんじゃいつまで経っても出来ないわよ?」 優一の隣に座っている操が、英文を書き取る手を止めて軽く忠告する。 「基本がちゃんと出来て、発展は噛る程度でいい。それが俺の正義だ」 またしても自信満々という口調で優一は言い切った。 ちなみに彼は何をしているのかと言うと、日本史の教科書を眺めているだけ。 稔のように問題を解いているわけでも、操のように書き取りをしているわけでもない。 この辺りに彼と他の二人との差があるのかも知れない。 「まったく……。高橋君、ちょっと見せて」 操は何を言っても無駄と諦め、稔のノートに目を移す。 「ははー。この問題ね。これはここを展開して、この公式を当てはめればいいのよ」 さらさらとペンを走らせていく。 難解に見えた問題が、あっという間に解体されてしまった。 「なーる。ありがとう!」 喉のつかえが取れたような表情をして、稔は再び問題に取り組み始めた。 「どういたしまして」 操は軽く小首を傾げ、自分のノートに目を落とす。
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