回顧

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「どう?はかどってる?」 そこにほんわかとした声と共に綾香が現れた。 手にはジュース入りのコップを乗せたお盆を持っている。 「あんまり根詰めちゃだめよ?適度に休憩を取って」 三人の前にそれぞれコップを置いていく。 「あざーす」 「ありがとうございます」 「ありがとう」 三者三様の返事。 それを聞いて、綾香はにこりと笑った。 「ごゆっくり」 そして台所の方へ歩いていった。 「綺麗だなぁ……」 綾香の丁寧かつ心配りの行き届いた動作を見て、操は切なげなため息をついた。 「何をやったらあんな風になれるのかしら?」 「まずは性格をどうにかしないとだなうおっ!!」 光速で顔面めがけて飛んできたシャーペンを、優一は日本史の教科書でガードした。 「危ないなぁ……」 優一は分厚い教科書に深々と突き刺さったシャーペンを捻りながら抜いていく。 その最中、突き刺さったシャーペンの切っ先よりも鋭い視線を向けられていたことは、言うまでもない。 「それをどうにかしろって言ってるのよ。俺は」 「るさいっ!!」 操は優一の手から奪うようにしてシャーペンを取った。 「じゃれてる暇があったら英単語でも覚えなさいよ。君たち」 呆れ顔の稔。 「ただいまー!」 玄関のドアが開け放たれる音と共に元気な声が響いたのは、そんな最中の出来事だった。
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