回顧

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「あー、さっぱりした!」 一悶着終えた後の宏は、まず風呂に直行した。 何しろ数日ぶりの帰宅である。垢も溜まれば洗濯物だって溜まる。 綾香が手際よく洗濯物を片付け、風呂も沸かしてくれた。 「テスト勉強か。学生の頃を思い出すなぁ」 そんな妻の支えもあって、宏はスーツからルームウェアに変わって再び参上した。 「僕は錬金学が苦手でね。よく居残りをさせられていたよ」 「えっ?そうなんですか?」 操が意外そうな声を上げた。 「塚越さんは魔法学の権威と評判でしたから、てっきり得意なのかと思ってました」 「いやいや、僕にだって苦手な科目はあるよ」 宏は優一の隣に腰掛けた。 「数学と錬金学はどうしてもダメだったね」 言いつつ息子の顔を見る。 「ま、その遺伝子はちゃんと受け継がれてるみたいだけど」 「天才なら全部天才でいてくれないかなぁ。俺が困るからさ」 優一も宏の顔を見て、そして二人で笑った。 仲睦まじい親子とはこのことだろう。 「あと、意外と言えばもう一つ」 操はペンを置いた。 「塚越さんてフランクな方だったんですね。もっと堅物な方だと思ってました」 「俺もそうだったなぁ」 向かい側の稔が、何かを思い出すように天井を見つめる。 「どんなお偉いさんかと思ってたけど、案外普通のおっさんなんだもんなぁ」 些か礼儀に欠ける物言いだが、これは塚越宏という人間の性格を理解しているからである。 無論宏も、そんなことは一切気にしない。 「僕は魔法学の学者の中でもまだまだ若手だからね。そんなに大きな顔は出来ないよ」 謙遜ではなく、真面目にそう思っているらしい。 魔法学者の中に年功序列というものがあるのか、操は知らない。 しかしテレビに出て踏ん反り返っている学者なんかよりも、目の前の自称若輩者の研究者の方が、遥かに好きになれそうな気がした。
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