回顧

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「タバコはっと」 宏はがさごそと鞄を漁っていた。 「おいおい。高校生の前で吸うことはないでしょーに」 優一が不快の念を顕わにした。 どうやら彼は、タバコがあまり好きではないらしい。 「火はつけないさ。僕だって場をわきまえている。……あれ?一本しか無いや」 宏は最後の一本を取り出すと、空箱をくしゃくしゃと丸めてごみ箱に追いやった。 「ちょっと買ってきてくれ」 続いて財布から千円札を取り出し、優一に差し出す。 「自分で行こうよ……」 「もう着替えちゃったから無理。まかせた」 強引に千円札を渡された。 どうやら、どうしても優一に行かせたいらしい。 「……分かったよ。行ってくる」 優一は教科書を置いて立ち上がった。 「いつものやつ二箱ね。頼んだよー」 ひらひらと手を振る父の姿を背中に受け、優一は居間を出ていった。 「容赦ないですねぇ。テスト前だってのに」 稔はくつくつと笑っている。 「ま、別に悪い点数を取ってるわけでもないからね。よっと」 宏はタバコを口にくわえ、優一が置いていった教科書を手に取った。 「勉強内容は今も昔も変わらないか」 ぱらぱらとページをめくり、元の場所に置く。 「優一は学校ではうまくやってるかい?」 そして、唐突にそんなこと訊いてきた。
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