回顧

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「えっ?」 突然何を言いだすんだ。 訊かれた操は思わず宏の顔を見た。 その顔は真剣そのもの。 本気で我が子の身を案じている。そんな顔だ。 「えっと……。別に問題ないですよ?」 実際、優一は問題行動は起こしてはいない。 少し前に自分とのちょっとした騒動があったが、それは言わないことにした。 「そうか。それはよかった」 宏は右手の指でタバコを挟み、心底安心したように息を吐いた。 「仕事柄、家を留守にすることが多くてね。親としては、何かと気になるのさ」 「あぁ、そういえば」 思い出したように稔が口を開く。 「ここに来る前に不良グループに絡まれましたね。リーダーと優一が顔見知りみたいでしたよ。小学校の時の」 稔の言葉を聞いて、宏は動きをぴたりと止めた。 その様子に、操は違和感を覚えた。 「……やっぱり、何かあったんですね?」 稔は、まるでこの時を待っていたかのように、ぐいぐいと話を進める。 操はそれを止めようとはしなかった。 彼女自身気になっていることだったし、何よりあの時の優一の顔――寂しさと、悲しさを混ぜ合わせたような微笑。それが頭から離れなかった。 「うーん……。ノーコメントってわけには、いかないかな?」 困ったように宏が言う。 二人に真摯な眼差しを向けられた彼に、もはや逃げ場はない。 「……分かった。話そう。でも、一つだけ約束してくれ」 困った顔が一変、真剣なものに変わる。 「この話を聞いても、優一に対する見方を変えないでほしい。せっかく出来た友達に突然接し方を変えられたら、すごく辛いと思うんだ」 「何言ってんですか。あいつは俺のマブダチですよ?」 稔はトンと自分の胸を叩いた。 「私も、そんなことは絶対にしません」 操も大きく頷いた。 「……ありがとう。じゃ、話そうか」 宏はタバコを口にくわえた。 「話は優一が小学校の頃にまで遡る。多分、あの子にとって一番辛い時期だと思う」 遠い昔の記憶。 それをひもとくように、宏は目を細めた。 「小学校時代、あの子はいじめに遭っていたんだ」
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