回顧

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「『無』という属性は、言ってしまえば難病みたいなものさ。他の属性と比べれば圧倒的に少ないし一般にも認知されてないけど、居ないわけじゃない。 日本にもあと一、二人くらいは居るんじゃないかな?」 宏は淡々と語り続ける。 過去にあったことを、ありのままに。 一言一言を、噛み締めるように。 「でも、能力が分かったからって、何かが変わるわけじゃない。いじめは続いたよ。 僕も転校は考えたんだけど、あの子は頑なに拒んだんだ。 『僕は何も悪くないのに、どうして転校しなきゃならないの?転校するのはあいつらの方だ!』ってね。 結局優一の意志を尊重したけど、綾香にも苦労をかけたよ。僕は留守をすることが多かったから」 台所の方からいい匂いが漂ってくる。綾香が腕を奮っているのだろう。 あの温和な笑みの下には、もしかしたら、深い悲しみがあるのかも知れない。 「優一は学校でも自分の能力を明かすことはなかった。 『無』の使い方、他の属性魔法の使い方、その全てを独学で身につけたんだ。僕の魔法学書を参考にしてね。読んで、使って、体力もつけて。もういじめに遭わないために。 中学校に入ってからは稔君のような友達も出来て、いじめも無くなったみたいだけどね」 『ただいまー』 玄関の開く音と気の抜けた声。 どうやら優一が帰ってきたらしい。 「さ、お話はおしまい。重い話を失礼」 啓は火のついてないタバコを灰皿に追いやった。 「おいすー。買ってきたよ」 それと同時に優一が入ってくる。 「ありがとう。お釣りはお小遣いにしていいよ」 「どーも」 宏に買ってきたタバコを渡し、自分の席についた。 「どした?さっきから全然進んでないみたいじゃないか」 「えっ?あっ……」 操は慌ててペンを持った。 「な、何でもないわ」 「ふむ……。だったらいいけど」 優一は教科書に目を落とした。
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