回顧

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「びっくりしちゃった」 操が口を開く。 「高橋君、おじさんの話聞いてキレたのかと思ったから」 「んー……。確かにキレたい気持ちはあったよ?どうして今まで言わなかったのかって」 稔は優一が出ていったドアを見つめる。 「でもさ、キレたらどうにかなるって問題でもないじゃん?あいつはあいつなりの方法で克服したんだから。俺がとやかく言うような問題じゃないし」 その表情は限りなく穏やかで、優しかった。 まるで息子を見守る父親のような表情だ。 「それにさ、聞いたからって俺たちの関係が崩れるわけでもない。少なくとも俺はそんな柔い気持ちであいつとは付き合ってない。 過去は過去。今は今。今楽しければそれでいいじゃん!」 稔はニッカリと笑った。 いつものニヤケ面とは違う爽やかさがある。 「そう……だね」 どうやら操の心配は杞憂だったようだ。 稔はさっきの話を咀嚼して消化した。 ならば自分もそうしよう。 むしろこれくらいのことでギクシャクするくらいなら、それは友達とは言えないだろう。 今が楽しければ、あるいは優一の過去を吹き飛ばせるくらい、自分が楽しませればいいのだ。 「母さんの手料理も久しぶりだなぁ。楽しみだ!」 「三日ぶりくらいで何言ってんだよ」 「何を言うか。僕の体は綾香の手料理がないと機能が停止するんだぞ」 「訳分からん……」 廊下から、楽しげな父子の会話が聞こえてくる。 何だかんだ言って宏と優一は、かなり仲が良いようだ。 「どれ。俺たちも手伝いするか」 「そうだね」 稔と操は互いの顔を見て笑った。 外では日はすっかり落ち、星が瞬き始めていた。
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