回顧

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「いやぁ、奥さんの料理すっげぇ美味かったです!」 日の落ちた住宅街。 その静寂を打ち破る声。 稔は満足そうに腹を擦っていた。 「ふふっ。お粗末さまでした」 見送りに玄関先に来ていた綾香は、ニコニコと頭を下げた。 隣に宏の姿はない。 彼は缶ビールを一本煽るとそのまま寝入ってしまったのだ。 研究所に缶詰になっていた疲れが出たのか。一同はそっとしておくことにした。 「ありがとうございました」 操もペコリと頭を下げる。 「いいえ。またいらしてね」 この人の笑顔は何か癒す力があるのだろうか。 操の顔も自然と綻んだ。 「今度料理教えて下さい!」 「あら。操ちゃん、料理出来るんだ?」 綾香は意外と言うように、眼鏡をくいと上げた。 「しっかりしてるのねぇ。いいわ。今度教えてあげる」 「ありがとうございます!」 「ほらほら。井戸端会議はそこらへんにしなよ」 終わりを宣告するように優一は手を叩いた。 「早く帰らないと遅くなる。行った行った」 思いやりのようなものが微塵も感じられない言葉だ。 空気が読めないとも言うのか。 とにかく、あまり気持ちのいいものではない。 「優一君よぉ」 稔が優一の肩に手をかける。
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