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街灯が照らす市道。
並んで歩く、二つの影。
一歩一歩進む度に、影が伸びたり縮んだり。
靴がアスファルトを叩く音だけが響いていた。
「なんでこうなるのかなぁ……」
優一はため息交じりに天を仰いだ。
空に瞬く星は、当然彼の疑問に答えてくれるはずがない。
「知らないわよ。そんなこと」
優一の隣を歩いている操もまた然り。
大股に歩いている姿からも、歩く度にはらはらと乱れる黒髪からも、彼女が不機嫌なのは明らかだ。
これが良家のお嬢様と聞いて一体誰が信じるだろうか。
「まだ怒ってるのか?」
事の発端はとても単純だ。
塚越家での一件の後、綾香が「優一、操ちゃんを送ってあげなさい」と言った。優一は乗り気ではなかったが、綾香はそれだけを言い置いてさっさと家に入ってしまったのだ。
しっかり施錠までして。
つまり、送ってくるまで帰ってくるなと綾香は行動で示したことになる。
「怒ってなんかないわよ」
こうなってしまっては、優一は手も足も出ない。
聞くと操の家は学校を通り越して市街地寄り、高級住宅街にあるらしい。優一の家とは全くの正反対の方向にある。
ちなみに稔宅は優一宅よりもさらに奥まった所にあるため、玄関先で別れていた。
「どう見たって怒ってるだろ。つくならもっとマシな嘘をつけ」
そういう訳で、優一と操は肩を並べて歩くはめになった。
ピリピリとした空気と共に。
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