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「誰から聞いた?」
口調からも表情からも糾弾の意志は感じられない。ただの事実確認と言ったところだろう。
その淡々とした感じが、かえって操には痛かった。
「おじさんから聞いたの……」
操は顔を伏せた。
とても優一の顔を見て話せる状態ではなかった。
「そうか……。つーことは稔の野郎も聞いてるな。口が軽いんだからなぁ」
しかし優一はそんなことは大して気にしていないようだ。
少し思考するように顎に手を当てると、再び歩き始めた。
「あっ……」
慌ててその後に続く。
隣に並んで歩けそうにはなかった。
沈黙が辺りを支配する。
(なんてことを……)
触れられたくない過去に触れてしまった。古傷を抉り、さらにその傷口に塩を擦り込んだようなものだ。
いくら怒っていたとはいえ、言っていいことと悪いことがある。
操は自責の念に駆られていた。
「当時の俺は、本当に馬鹿だったな」
ふと、優一が口を開く。
「素直に転校すりゃあいいものを意地になってさ。まぁそれが今の俺を形成したんだから、皮肉と言えば皮肉なのかな?」
その口調は自嘲を含んだものだった。
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