回顧

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「アホみたいに魔法学書を読み漁って、『無』の制御の仕方とか、各属性の特徴や要素を理解してうまく使いこなせるようにしたりな。 『無』ってのはよく分からんもので、どんなにエーテルを吸収しても一晩寝れば無くなるんだよ。どうやって消費してるんだか」 宏のように言葉を噛み締めてるわけではない。 ただ過去を振り返って説明している。そんな話ぶりだった。 「まぁいくら強くなったからと言っても、俺は聖徒君人じゃないからな。当時いじめてた奴を許すつもりはない。 今日みたいに絡んでくる奴が居たら遠慮なくボコボコにする。そうじゃなかったら放っておく。それだけだ」 そう言って、優一は足を止めた。 「だからお前も気にしないように。多分責任を感じてるだろうから。 俺はちゃんと吸収して、己の血肉に変えたからな」 「……」 この時の自分は、一体どんな顔をしていただろう。 後悔に苛まれた泣きそうな顔だろうか。 気にするなと言われたことによる安堵の顔だろうか。 それでも責任に駆られたしかめっ面だろうか。 ただ一つ分かることは、優一の背中が何だか大きく見えたことだ。 「……ねぇ」 操は優一の隣に並んだ。 「今度何かあったら……ちゃんと言いなさいよ。少しは力になれると思うから」 しかしやはり優一の顔は見られなかった。 「そうか。そりゃ頼もしいな」 優一は、そっぽを向いている操の頭に手を置いた。 「っ!!」 操はびくりと肩を震わせた。 「ま、その時はよろしく頼む」 「……」 返事はしない。 頭に置かれた手から伝わってくる暖かさを、ただただ感じていた。 刹那。 「っ!?」 不意に何かを吸い取られる感覚に襲われた。 体の奥底にある力が脳天に上がり、体外に出ていっている。 その感覚は、頭の荷重が取れるのと同時になくなった。 「……私のエーテルを吸収したわね」 操は優一の顔を見上げた。 人の力を吸い取る力を持っているのは、この界隈では優一しかいない。 「『無』にはフタみたいなものがあってな。普段は閉じてるんだけど、相手の攻撃を受ける時には開くんだ。で、吸収したらまた閉じると。無意識のうちに出来るようにするのはけっこう大変だったよ。 ちなみに今みたいに意識してやることも可能だ」 睨まれた優一は、稔のそれと同じニヤケ面をしていた。
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