回顧

34/36
前へ
/396ページ
次へ
下界へと続く道を三人は歩く。 暮れ泥む夕日を背に歩くその姿は、テストが終わったことによる清々しさに包まれていた。 「しかし優一君よぉ」 三人の中では一番背の高い稔が、優一を見下ろしながら言った。 「君には向上心というものは無いのかね?」 「何だよいきなり……」 優一は訝しげに稔を見る。 「いや。いつも同じようなところを行ったり来たりしてるから」 「大きなお世話じゃ」 ふん、と優一は鼻で息を吹いた。 「俺は高望みしない性格なんでね。お前が高いだけだ」 その口振りからは、自信や確信のようなものがはっきりと感じられる。競争心が無いと言えばそれまでだが。 「そんなんじゃ大学受験に勝てないわよ?みんな死ぬ気で頑張ってるんだから」 さすがの操も呆れ顔だ。 彼女の発言は彼女自身にも言えることだが、優一とは次元が違いすぎるため、比べるのはナンセンスである。 「あぁ。それなら大丈夫」 優一はピンと人差し指を立てた。 「父さんが神武大学に推薦してくれるってさ。留年その他問題行動をしないってのが条件だけど、今のまま進めば大丈夫」 神武(じんむ)大学とは、魔法に関する研究で日本の最高位に位置する私立大学である。魔法学、錬金学、エーテル学、魔法医療など、各界に様々な偉人を輩出してきた伝統のある大学で、優一の父である宏もこの大学のOB、さらに教授も務めている。 ついでに綾香もこの大学で魔法医療を学んでいるが、それはまた別の話。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90798人が本棚に入れています
本棚に追加