えにし糸

恋の掛け替え

ママはお得意の人なつっこさで、男に話しかける。
「あら、いい男だこと！ いい男が来ない店で有名なこの店にとびっきりのいい男がやってきたわ」
男はただ頷くだけで、もくもくとビールをあおっていた。
「なんだい、ママ！ ここにもいい男がいるじゃないか」
常連の文さんの抗議に、周囲から笑いが零れる。
「そういや、そうだね。文さんはどうでもいい男、お兄さんはほんとのいい男」
ママと文さんのおかしなやり取りに、男は少し笑をうかべた。
「ここは素敵なお店ですね」
そうつぶやくと男は残りのビールをあけ、人なつっこい笑顔を浮かべた。