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私はそのやりとりを奥から眺めていた。すでに磨いたグラスを何度も磨き、視線は男からはなせない。
常連の文さんたちが引き上げ、店内にママとその男と私だけになった。
「ではそろそろ帰ろうかな」
「車呼びましょうか?」
「いや、近くなので歩いて帰りますよ」
男がそう言って立ち上がった瞬間、外の雨音が一段と強さを増した。
「あら、遣らずの雨かしら?」
「そうかもしれないな…」
男の視線が私を射抜く。私は視線を反らすことができず、その端正な顔を見つめ続けていた。
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