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「あの男はだめよ」
閉店後、後片付けをしながら、ママが言った。蛇口の水を出しっぱなしのまま、静かに微笑む。
「恋はたくさん。それに会ったばかりの人を好きになるわけないですよ」
ため息つきながら、ママは真顔で見つめる。
「ほんとよ、洋子ちゃん危なっかしいとこあるから… 気をつけてね」
「ありがとうママ…」
心に広がるぬくもりを感じながら、自分に言い聞かせる。
「あの男はダメ…」
男のわりに綺麗な指をしていた。時々見せる笑顔が、高校生の時に憧れていた先輩に似ていた。
瞳の奥に見える暗闇が、どこか私と似ていた。
あの男のことばかり考える自分にもう一度言い聞かせる。
「あの男はだめ…」
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