春の寒風

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「会社が倒産した。もうお前の面倒は見てやれない。すまない、別れてくれ」 「はい…今までありがとうございました」 いつかそんな日がやって来る、そのいつかが今なだけ。それが別れを切り出された時の感想だった。泣いて縋った方がいいのか、あっさり別れに応じた方がいいのか、まるで第三者のように考えている自分がおかしくも思えた。 私は一人でいる時に、すぐに答えの出る自問自答を繰り返した。 ―この人を愛しているのか? そしてすぐさま、答えのでない自問自答を始める。 ―私は人を愛することができるのか? そんな時、決まって部屋をとおり抜ける風は生ぬるく、不快に私をなぶり続けていた。
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