12人が本棚に入れています
本棚に追加
最後の夜も泣かなかった。涙は流しているのだが、泣いてはいない。この人のために涙を流さなくてはいけない。そんな思いから涙を流すのだが、相変わらず薄く滲んだ月をほうけたように見つめている。
「つや子、これからどうするつもりだ」
「毎月いただいていたお金がだいぶ残ってます。どこか安いアパートを借りて何か仕事を探すつもりです。今までありがとうございました」
私は用意していた台詞を吐き出すようにつぶやく。
春を迎えたばかりのまだ冷たい風が、二人の間を走り抜けて行った。
最初のコメントを投稿しよう!