ある犬の話

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ほら抜けれた。まあ、最近は抜けねえよ。何故かって?その話を今からすんだよ。落ち着けよ、水飲むか? 玄関の横に蛇口があるだろ?そう、石畳の横だ、椿の所だ。そう、そこ捻れよ。水が出るから。 飲んだ?飲めって!なんの為に教えたんだよ。 昔、俺は悪さばかりしてたんだ。こうやって茂みの下を掘って抜け出してね。 ダンナも散歩に連れて行ってくれるが、やっぱ紐に繋がれるし、短気なダンナのことさ臭いを嗅ぐ時間も限られるわけよ。まあダンナは撫でてくれるし、言われるままに座れば甘いビスケットなんかもくれて楽しいは楽しいんだか、老いぼれ犬の四丁目のサカエじゃあるめえし、ダンナに併せてとぼとぼ歩くのにもうんざりしてたわけよ。 走りたかったんだ。犬ってそんなもんだろ?臭いは芸術で、走るのは人生だ。いや犬生か。 まあ走れなくなったら、犬生も半分お終いよ。 あとは芸術に生きるしかねえよな。   夏のある日、余りの暑さに車庫裏の陰で伸びてたわけよ、土がひんやりして気持ちがいいんだ。しかし、ある程度寝てたら土が暖まるんだ、だからまた冷たい土が出てくるまで掘ったんだよ。そしたらよ、ある発見をしたんだ。掘れば掘るほど冷てえんだよ!
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