ある犬の話

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しかも、当然だが穴が深くなるんだよ。なんだか、成し遂げる喜びってえの?気づいたら体冷ますの忘れちまってね。 そう。柵の下が貫通して表に出てたんだよ。 最初は怖かったさ、ダンナと一緒以外に表に出たことなんざなかったからね。一人ぼっちってわけだ。 とりあえず、表に出たらいつも一発目に小便を引っ掛ける、四つ角にある電柱まで行ってみた。 なんだか時間が止まったみたいに静かだったな。じーじー、と単調な蝉の音しか聞こえねえ。 人も車も居なかった。   なんだか途轍もなく自由で不安だった。腰抜けだと思うか?じゃあ、お前も考えてみなよ。明日からは仕事無しだ。当然収入もない。 考えたか?不安だろ?不安じゃない? あぁ立派だね。でも不安じゃねえなら立派な馬鹿だ。   何故かって?そりゃ俺みたいにビビっててもだ、予期せぬ不幸に合うときは合うからな。 構えてても死んでたかも知れねえよ。アウシュビッツだ。そう、ガス室に送られそうになったんだよ。     とにかく俺は若いから、何日も掛けて、ビビりつつも足を進め行動範囲を広めたわけよ。 若いってのは罪だね。ある日、まだ夏だったが、だいぶ孤独に対する恐怖心も薄れ、本能が芽生えたんだ。
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