ある犬の話

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つまり、童貞の俺もついに一発かましたくなったんだ。 二丁目の柴犬のココって女を思い出した。   ココの飼い主のババアは通り過ぎるだけでいつも睨みつけやがって、気に食わねえ奴だったが、ココは上玉だと思わねえか?あの尻にかけての丸い流線型。ビッシリと詰まった毛の塊。いい女だよな。  発情してから、ダンナが女に近づけてくれなかったからな。その日、俺はうきうきしながら駆けてったね。   鎖に繋がれてるから、下手したらレイプになり兼ねねえな。嫌がるなら何度か通っていつか落としてやるぜ!俺は英国紳士だからね。なんて考えてたんだ。 しかし、いざそこに着けば、あの女も満更じゃないらしくてね。   「一目見たときから貴方に惚れてました。」 なんて言うじゃないか。どうしたって?やったよ。何をって?皆まで言わす気かい。   とにかく俺は卒業したんだよ。けどな、大事なのはそれじゃない。その後に起こった卒業式の方だ。あの飼い主のババアがニコニコとジャーキー持って出てきてね。おいおい、ファックにジャーキーか、気が利くね。なんてスタスタ近づいたのが運の尽きだ。   あっさりアウシュビッツ送りよ。あのババアいつから見てたのか、「バンク!バンク!」なんて甘い声出しやがって。手が届いて捕まえる時には、コロっと手のひらを返しやがった。「クソ犬が!殺してやる。」なんて凄んでよう。保健所に斟酌無用の対応で連絡しやがった。ジャーキーに毒が入ってなくて本当によかったぜ。  暫くするとゲシュタポみたいな奴らが二人来て、口輪を付けられてね。ヤスリで半年こすっても切れそうにない檻に入れられて、小汚ねえ雑居房にいれられちまったよ。   痩せ犬ばかりだから襲われる怖さはなかったがな。あの、いもいえない色々な犬の悲しみの臭い。気丈な俺も泣き出したくなっちまったよ。
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